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東京高等裁判所 昭和39年(ネ)175号 判決

控訴人 柏熊恒

被控訴人 国

訴訟代理人 横地恒夫 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人は控訴人に対し、金一〇、〇〇〇円、およびこれに対する昭和三八年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ、訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴指定代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

一、控訴人が昭和三六年五月一七日東京高等裁判所昭和三五年(ネ)第二、八五九号建物収去土地明渡等請求控訴事件について訴外田中清堯を相手方として反訴(同裁判所昭和三六年(ネ)第一、一〇八号損害賠償請求反訴事件)を提起したところ、同事件は、右控訴事件とともに同裁判所第七民事部に係属したことは当事者間に争いがない。

二、控訴人は、控訴審における反訴提起につき相手方の同意が得られない場合は、これを独立の訴として取り扱い、これを第一審裁判所に移送すべきであつて、このような場合には、反訴状には、民事訴訟用印紙法第二条により第一審の訴状に貼付すべき印紙の額と同額の印紙を貼用すれば足りるのに、東京高等裁判所の受付係職員が控訴人に対し、本件反訴状に第一審の訴状に貼付すべき印紙額の一、五倍の額の印紙の貼付を命じ、金二、〇〇〇円の印紙を加貼させたのは違法であると主張する。よつて判断する。

(一)  受付係書記官は印紙の貼用について調査するが、その適不適を判断する正式の権限を有する者は、裁判長ないし受訴裁判所である。受付係書記官のする調査は、その裁判長ないし受訴裁判所の補佐として事実上の調査たるに止まる。すなわち受付係書記官は訴状提出についての瑕疵があるかどうかを下審査し瑕疵がある場合には適切な注意を与えて是正させると共に、当事者が訂正に応ぜず強いて受付を求めた場合には、これをそのまゝ受領し、担当裁判官又は合議体に、意見を付して回付するのである。

従つて受付係書記官が、印紙の加貼を命ずると言うことはない。

(二)  控訴審における反訴の提起は、第一審で審判の対象となつていなかつた新請求の提起である。但しこの新請求(反訴)は、控訴審の判断の内容となるのであるから、控訴状と同じく、民事訴訟用印紙法第五条により反訴状には、その訴額に対する印紙額の一、五倍の額の印紙を貼用すべきである。

(三)  手数料納付の義務は、当事者が裁判所に対して一定の行為を求めることによつて当然に生ずるものであつて、裁判所によつて申請通りの行為が為されるか否か、また、為されたか否かに関係しない。従つて控訴審に於て反訴を提起するときは、反訴状に前項による印紙額を貼布すべきである。

(四)  控訴審に於ける反訴の提起には相手方の同意ある場合であることが要求されている。そしてこのことは、控訴審に於ける反訴提起の要件である。従つて、これを欠くときは不適法として判決で却下さるべきものである。

以上の理由により控訴人主張の如き違法はない。

三、してみると、本件反訴状に、金二、〇〇〇円の印紙を加貼させたことが違法であることを前提とする控訴人の本訴請求は、その余の判断をまつまでもなく失当であるから、これと同趣旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条第八九条の規定を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 千種達夫 渡辺一雄 岡田辰雄)

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